前回の記事 が思った以上の反響をいただきました。読んでいただいた方は、ありがとうございます。
今回の記事では、数理論理学の一分野である様相論理について、主要な参考書を紹介します。 様相論理に興味があり、これから学習していきたい方への一助となれば幸いです。
日本語で読める本のうちで、様相論理を扱っているものをピックアップしてご紹介します。
和書ではもっともおすすめできる本です。 Kripke model と言われる様相論理の標準的な意味論とヒルベルト流による構文論、さらにその完全性や決定可能性など、 基本的なトピックが一通り網羅されています。 序章からはじめて、第1部を通読すれば、様相論理について必要な事項を必要十分に学ぶことができます。
3.2 節では様相論理の発展といえる論理が複数紹介されており、 これから様相論理についてさらに勉強したい人にとってのよい道案内となっています。 また 3.3 節では、哲学的議論も絡めた様相論理の歴史が紹介されています。
前回の記事 『数理論理学を初めて学ぶ人へのブックガイド』 でも紹介した本です。 様相論理は第 4 章で扱われています。『数学における~』と同様、 意味論と構文論、完全性、決定可能性といった基本的なトピックが紹介されています。 直観主義論理と様相論理との関連性については、こちらの本が詳しいです。 様相論理だけでなく、広く非古典論理を勉強したい人におすすめ。
様相論理についてある程度知識があり、さらに進んだトピックを勉強したい、という方にお勧めします。 基本的な様相論理の説明についてはシンプルにとどめ、その発展に紙幅を割いています。 ここでは CTL 、様相 μ 計算、 PDL という3つの論理が扱われています。 情報科学に興味のある方はいずれも勉強して損のないものです。
かなり新しい論理学の教科書です。 様相論理は第 3, 4 章で扱われています。 また、第 12, 13 章にある関連性論理は、様相論理の発展といえる論理です。 この本の興味は日常言語による推論であり、関連性論理はその分析を支える強力な道具となります。
特筆すべき点として、この本では構文論がまったく登場しません。 そのため、あまり数学に慣れてない人でも親しみやすい本となっています。 しかし、論理学を本格的に学びたいなら、証明論の勉強は欠かせません。 上であげたほかの参考書と並列して読むことをおすすめします。
日本語で書かれた様相論理の教科書は、まだ十分にあるとは言えません。 本格的に勉強したい場合は、英語で書かれた本を読むという手段もあります。
ゼロから様相論理を始めたい、という方に最もおすすめできる洋書はこれです。
この本の大きな特徴として、Introduction として S5 という様相論理を扱っています。 まず S5 という直観的にわかりやすい体系を紹介することで、様相論理に入門するための敷居を下げています。 また、 S5 は様相論理の「はじまり」ともいえる体系でもあります。 命題の必然性を考える際に「可能世界」というアイデアを持ち出した最初の人物は Leibniz だと言われています。 S5 はこの Leibniz の考え方に最も近い形式論理です。
Part I, II で様相論理の基本的なトピックについて扱い、Part III では進んだトピックである非正規様相論理を紹介します。 Part II まで通読すれば、様相論理の基礎をマスターできます。
かなり内容の充実した様相論理の教科書です。 全部で 600 ページ超の大きな本の中で、様相論理の様々なトピックを網羅的に扱います。 第 7 章は様相論理の発展である論理を多く紹介しています (私の研究対象である Hybrid Logic も紹介されています)。
すべて読み通せばかなりの力が身に付きますが、相当の時間が必要だと思います。 初学者は、他書で様相論理の基本を一通り学んだのち、この本でさらに理解を深める、という形で運用するのが良いと思います。 様相論理、またその発展になる論理を専門に研究する人は、ぜひとも持っておくべき一冊です。
定番とされている様相論理の教科書ですが、やや古くなってしまった感があります。 初学者向けに書かれたものとしては、先にあげたChellasのもののほうがおすすめです。
この本の後半に登場する様相述語論理は、先に紹介したどの本でも扱われていないトピックです。 興味のある場合はこちらで勉強するのがよいでしょう。